コラム

アメリカ移民法・ビザ申請の基礎

2024年 4月 3日更新

第106回 : 「H-1B」ビザ所持者が、他の会社に移りたい場合はどうすればいいの?

Q

昨年から、「H-1B」保持者として、IT関連の会社で働いています。先日、他の日系会社より誘いの声がかかりました。私としては、その会社の方が学べることも多く、将来にもつながる経験が積めると思うので転職したいのですが、果たして可能でしょうか?その会社からは、来月にでも来て欲しいと言われていますが、私がアメリカに合法的に住めることを優先して、慎重に判断したいと考えています。

A

あなたの場合は、「H-1B」の雇用主の変更(Change of Employer)を行うことにより、新しい雇用主の下で 「H-1B」で就労することができるようになります。また、このケースの場合は、毎年3月初旬に行われる抽選の対象となりません。ただし、いくつかの留意点がありますので、以下、それらに関して述べます。

まず、「H-1B」の条件には、大きく分けて以下の3つがあります。

  1. 4年制大学を卒業しているか、あるいはそれに相当する職務経験があること。
  2. 当該職務が4年制大学を卒業、あるいはそれに相当する職務経験がないとできないほど、専門性を必要とするものであること。
  3. 4年制大学で学んだこと(専攻)、あるいはそれに相当する職務経験が、当該職務に一致していること。

一般的に、「H-1B」の申請においては、上述の1)または3)で却下されることは珍しく、却下される場合は、2)が理由となっているケースがほとんどです。2)は、申請者本人の学歴や職歴が審査の対象になるのではなく、受け皿となる会社における申請上の職務内容が、いかに専門性を必要とするかが審査の対象となります。

ただ、あなたのように「H-1B」の雇用主の変更の申請を行う場合は、2)だけでなく3)の要素も考慮する必要があります。雇用主の変更の場合は、いったん、「H-1B」を取得しているので、容易であると考える人も見受けられますが、必ずしもそうとは言えず、それは個々の状況によります。

上述の条件2)に関しては、一般的に、理系の分野での職務においては当該条件を満たすことが比較的容易ですが、文系の分野での職務の場合においては、会社の規模がその審査対象になるケースが顕著です。大まかな目安としては、従業員が26人以上の会社の場合は、認可される可能性が高く、10人未満の会社ではその逆であると言えます(もちろん、あくまで確率的目安であり、絶対的なものではありません)。そして3)の場合は、雇用主を変更することによって、どれだけ職務内容が変わるのかを考慮する必要があることになります。

「H-1B」の雇用主の変更の申請においては、この申請書を移民局が受け取った時点で、当該申請が認可を受ける前に、新しい雇用主の下で就労を開始することができるとされています。ここで、注意しないといけないのは、申請書提出後、新しい雇用主の下で働き始めた後、移民局から申請の却下の通知を受けた場合、新しい雇用主の下で働くことができないだけでなく、当然、元の雇用主の下に戻れる状況ではないはずなので、行き場を失いアメリカを離れなければならない状況に追いやられるリスクがあることです。従って、安全策を取るのであれば、雇用主変更の申請を提出した後、認可されるのを待って職場を変えるとよいでしょう。

ただ、あなたのように新しい職場からの要求で、即座に新しい会社に移らなければならない場合は、上記の、2)、3)の要素を考えて決断を行う必要があります。具体的には、「新しい会社の業種が今の会社とどれほど似ているか」「新しい会社の規模が今の会社に比べて大きいのか小さいのか」「新しい会社での職務内容が、今の会社での職務内容と同じであるか否か(大学での専攻が一致しているか)」などになります。

また、他の留意点としては、「H-1B」は、更新および雇用主の変更を行うことができますが、最大延長期間が、合計で6年間であるということです。この6年を超えて「H-1B」を使うには、グリーンカードの申請を並行して行う必要があります。この条件を満たすには、グリーンカードの申請過程で与えられる「プライオリティー・デート(Priority Date)」から1年以上が経過していることです。さらに注意点としては、「プライオリティー・デート」を取得するには1年ほどを要するため、雇用主の変更を行う場合で、あなたがこの6年以降も就労を続けたいのであれば、「H-1B」の残りの期間が少なくとも2年以上あることが望ましいです。

上記の諸々の条件を吟味し、正しい判断を行うことをお勧めします。

注意事項 : コラム内で提供しているビザ・移民法に関する情報は一般的な情報であり、個人の状況や背景により異なる場合がございます。的確な情報詳細につきましては、移民法専門の弁護士にお問い合わせください。

2024年 4月 3日更新

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Columnist's Profile

CEO/Attorney
瀧 恵之瀧法律事務所 Taki Law Offices, A Professional Corporation

新潟大学法学部卒業。日本の法律事務所に勤務の後、インディアナ大学大学院卒業。20年以上に渡り、移民法の分野で活躍。常にクライアントの立場に立った柔軟なアドバイスが特徴。

瀧法律事務所 Taki Law Offices, A Professional Corporation

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