コラム

アメリカ移民法・ビザ申請の基礎

2020年 7月 8日更新

第61回 : グリーンカードおよび一部就労ビザの制限・入国停止について

Q

先月末に、トランプ大統領から、今年いっぱいはビザ・グリーンカードの制限をするとの発表があったと聞きました。現在、私は、H-1Bビザでアメリカに滞在しており、グリーンカードの申請もしています。今後、どのような影響があるのでしょうか?

A

トランプ大統領は、2020年4月20日に、アメリカ国民の雇用を守るため、グリーンカードの申請手続きに60日間の制限を加える発表を行っていますが、6月22日にこの制限の延長に加えて、今年いっぱいまで、定められたビザによる入国停止の発表を行いました。

以下、その制限の内容と、その解説およびそれに対する一般的な対応策も含めてご説明します。

まず、制限の対象になるビザの種類は、H-1Bビザ、H-2Bビザ、Jビザ、Lビザです。その他の種類のビザ(例:Bビザ、Eビザ、Oビザ等)は制限の対象外となります。H-1Bビザは、専門職ビザと呼ばれるもので、申請者が4年制大学を卒業しているかそれに相当する職務経験があり、米国での職務内容が複雑かつ専門的で、大学あるいは職務経験で学んだことを当該職務で生かすためのビザです。H-2Bは、季節(一時)的熟練・非熟練労働者のためのビザで、J-1 ビザは、学生や研究者、研修生、教師、大学教授などの交換プログラムのために用いられるビザです。そして、L-1ビザは、日本にある会社(親会社)から米国内にある会社(子会社)に派遣される人のためのビザです。

これらのビザの制限は、1)2020年6月24日の時点でアメリカ国外に滞在していて、2)同年6月24日の時点で有効なビザを保持していない場合に適用されることになります。従って、あなたのように H-1B ステータスでアメリカに既に滞在している人、また、仮にアメリカ国外にいても、6月23日以前に、既にビザの発行を受けている人は制限の対象になりません。例えば、6月24日の時点で、アメリカにあなたがH-1ビザで滞在しており、またあなたの配偶者と子供が日本にいて H-4 ビザを持っている場合は、あなたの配偶者と子供は、6月24日以降のアメリカ入国も可能ですし、あなたの6月24日以降の滞在・就労が継続できるだけでなく(パスポートに貼られている)H-1B ビザの有効期限内であれば、アメリカからの出入国も可能ということになります。

ここで重要なことは、ビザの制限を課しているだけであって、ステータスつまり滞在資格の制限を課しているわけではないということです。すなわち、上記の制限に該当するビザを持っている場合でも、ビザの有効期限内は、アメリカからの出入国が可能ですし、ビザが切れた後もアメリカからの出入国ができなくなるだけ(もちろん、これによる障害が発生する可能性は大いにありますが)であって、アメリカ国内に滞在している限り、ステータスが切れる前に延長申請を行えば、継続してアメリカ国内において滞在・就労が可能になります。

H-1B の場合は、最大延長期限の6年までの延長が可能であり、L-1Aの場合は7年、L-1Bの場合は最長5年までの延長が可能です。このステータスの有効期限は、I-94に記載されています。また、この有効期限の後(あるいは、仮にH、Lステータスにも制限が掛かった場合であって)も、日本人の場合は、アメリカ国内において、E-1またはE-2ステータスに切り替えることにより、滞在、就労を継続する手段も考えられます。

そして、グリーンカードに関する制限も延長されていますが、これに関しても重要なことは、申請自体が停止されたわけではないということです。あなたのように就労を通してグリーンカードを申請している場合、その多くは、1)募集広告、2)労働局の審査、3)I-140の申請、4)I-485 の申請の4つのプロセスに分かれますが、I-485 の申請を行えば、その後、就労許可や一時渡航許可が発行され、仮に、グリーンカードの発行が遅れたとしても、それまでの間、アメリカ国内において、合法的に滞在、就労および出入国ができることになります。言い換えると、グリーンカードを保持しているのとほとんど変わらない状態でグリーンカードの面接・発行を待つことになります。

従って、あなたの場合、I-485 を申請した後に就労許可が来る時期まで、現在の H-1Bステータスが有効であれば、継続して滞在・就労が可能であり、また、それまでに H-1B ステータスが切れてしまう場合であっても、ステータスの延長申請を行えば良いことになります。また、延長の際、H-1B の最大延長期間の6年を超えてしまうような場合であっても、あなたのグリーンカードの手続が申請を開始して(労働局に申請を開始した時点から)1年を経過していれば、6年以降の更新も可能になります。

今回のトランプ大統領の規制内容は、今後、変更や延期の可能性があるとされています。もちろん、この規制により、不都合が生じることは大いにありますが、その状況に応じた適切な対応をすることより、それを最小限に抑えることができる可能性も充分にあると言えます。

筆者からのコメント : 今回のコラムは、2020年7月5日時点での得られる情報をもとに執筆したもので、その後に内容が大きく変わる可能性も大いにあります。このコラムを読まれている際には、既に大きく状況が変化している可能性があることもご了承頂ければ幸いです。

2020年 7月 8日更新

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Columnist's Profile

CEO/Attorney
瀧 恵之瀧法律事務所 Taki Law Offices, A Professional Corporation

新潟大学法学部卒業。日本の法律事務所に勤務の後、インディアナ大学大学院卒業。20年以上に渡り、移民法の分野で活躍。常にクライアントの立場に立った柔軟なアドバイスが特徴。

瀧法律事務所 Taki Law Offices, A Professional Corporation

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