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まるわかりハーグ条約
ハーグ条約は国境を越えた子どもの移動に関する条約です。多くの皆さんに正しく知ってもらえるようにコラムを執筆します。ぜひお読みください。(本コラムはロサンゼルスの事例を中心に紹介しています。)
「ハーグ条約」とは~導入編~
“ハーグ条約”という名前を聞いたことがありますか?海外で生活する方、特にお子さんがいる方には正しく理解していただきたい条約です。
どのような条約なのかを簡単に説明します。
“夫婦仲が悪くなり、一方の親がもう一方の親に無断で子どもを国外へ連れ出す。”
このようなケースを見聞きしたことはあるでしょうか。自分が同意していないにも関わらず、もう一方の親によって子どもが別の国に連れて行かれた場合、残された親はハーグ条約に基づき子どもの返還を求めることができます。
ハーグ条約の正式名称は、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(Convention on the Civil Aspects of International Child Abduction)です。1980年にオランダのハーグで作成され、日本については2014年4月に発効しました。2020年3月現在、世界101か国がハーグ条約を締結しています。ハーグ条約で定められていることは大きく分けて2つあります。
- ① 子どもの返還
- 一方の親により、もう一方の親の同意を得ないまま国外に連れ去られたり、留め置かれたりしている子どもを、元々住んでいた国に返すための国際協力の枠組み
- ② 子どもとの面会交流
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別々の国にいる親と子の面会交流の機会を確保するための国際協力の枠組み
このように、この条約は、その子どもがどちらの親と暮らし、育てられるのかなど、親権または監護権について定めるものではなく、子どもが元々住んでいた国に戻ってから親権または監護権についての手続が行われるのが、お子さんの利益にかなうとの基本的考え方に立っています。
残された親や外国にいる子どもと会えない親は、各国が指定した中央当局に援助申請をし、認められれば、中央当局から援助を受けることができます。日本では外務省が、アメリカでは国務省が中央当局の役割を担っています。
中央当局の援助を受けるための条件には以下のようなものがあります。
- お子さんの年齢が16歳未満であること。
- お子さんが元々住んでいた国と、移動した先の国が条約の締約国であること。
- (お子さんの返還を求める場合)お子さんが元々住んでいた国の法律に基づき、残された親が子どもを監護する権利を持っており、その権利が侵害されていること。(例:子どもを監護する権利を持っている親の同意がないのに、もう一方の親が子どもを黙って国外に移動させるなど。)
- (お子さんとの面会交流を求める場合)子どもが住んでいた国の法律に基づき、残された親が子どもと面会交流することができ、実際にはその面会ができないでいること。
例えば・・・。
- 子どもは5歳。
- 子どもが元々住んでいた国はアメリカ、移動した先の国は日本であり、どちらも条約の締約国。
- 両親はまだ離婚の手続等を行っておらず、どちらの親も子を監護する権利を持っている。
- 残された親は子どもの日本への移動に同意していない
このような場合、残された親はハーグ条約に基づき中央当局から援助を受けることができます。なお、ハーグ条約には、両親や子どもの国籍に関する規定はありません。また、条約で定めているのは、国境を越えて子が移動した/子と会えないケースになっていますので、国内事案(例えば、米国のカリフォルニア州からテキサス州に子どもが連れ去られたなど)には、ハーグ条約は適用されません。
条件を満たしたケースについては、中央当局が「援助」を提供します。これは中央当局が子どもの返還/子どもとの面会交流の実現に向けて支援をすることを意味します。援助することが決まると、事案ごとに担当者がつき、担当者が当事者や外国の中央当局と連絡を取りながら、問題解決に向けた援助をしていきます。具体的には、ハーグ条約に詳しい弁護士の紹介(日弁連への紹介の仲介)、第三者を間に入れた話し合いができるADR機関の紹介、面会交流支援機関の紹介、裁判所に提出する書類の日本語への翻訳などがあります。これらの援助は両方の親に提供されます。
残された親がハーグ条約に基づき中央当局に申請をするところから手続が始まります。
要件を満たしており、援助することが決まったケースでは、日本中央当局がお子さんと一緒にいる親が日本のどこに住んでいるかを調査し、その住所に手紙を送付します。
当事者同士の話し合いで解決することが望ましいですが、話し合いができない、または、残された親が裁判での解決を希望する場合には、裁判手続に進むことになります。裁判では子どもが元々住んでいた国に帰るか(返還)、帰らないか(不返還)を決めます。なお、原則は子どもを元々住んでいた国に返還することになっている点には注意が必要です。不返還が認められるのは、特別な理由が裁判で認められる限定的なケースです。
これらの過程を経て、子どもが元々住んでいた国に帰ったこと、又は日本に残るということが決まったことを確認後、中央当局の援助が終了します。
個別のケースが条約の対象になるか、や、日本中央当局の支援内容について不明点があれば、外務省ハーグ条約室にお気軽にお問い合わせください。また、裁判などの法的手続については弁護士に助言を求めることをお勧めします。
- ポイント
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- 一方の親の同意なく、もう一方の親が16歳未満の子どもを連れて外国に連れて行った場合、残された親は子どもの返還を求めることができる。
- 残された親が中央当局に申請することにより、返還/面会交流の実現に向けて、残された親および子と移動した親の両方が中央当局から援助を受けることができる。
- 話し合いで解決ができない場合は、残された親の申立てにより裁判手続に進む。原則は子どもの返還が命じられる。
今後は、さらに少し詳しいハーグ条約の説明や海外に住む皆さんに役に立つ情報を提供していきます。
2020年 3月 16日更新
- ホームページ: 外務省 ハーグ条約
- 動画: Youtube
- Twitter: @1980HaguePR
Information
- 広報班外務省ハーグ条約室(外務省ハーグ条約室)
日本では2014年4月1日にハーグ条約が発効しました。ハーグ条約では各締約国に中央当局の設置を義務づけており、日本では中央当局を外務大臣とし、その実務を外務省ハーグ条約室が担っています。
ハーグ条約室では、少しでも多くの方に正しくハーグ条約について理解してもらうべく、国内外で広報活動を行っています。
ハーグ条約について様々な角度から解説していきます。ご不明な点がありましたら、以下までお問い合わせください。
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