まるわかりハーグ条約

ハーグ条約は国境を越えた子どもの移動に関する条約です。多くの皆さんに正しく知ってもらえるようにコラムを執筆します。ぜひお読みください。(本コラムはロサンゼルスの事例を中心に紹介しています。)

2021年 1月 5日更新

子どもが日本から米国に連れ去られた場合:ハーグ条約ケースの手続きの流れ

過去のコラムでは、子どもが米国から日本に連れ去られた場合など援助申請する親御さんが米国にいる場合の流れについて主に説明してきましたが、今回は子どもが日本から米国に連れ去られ、残された親御さんが子どもの日本への返還を求める際の流れについて説明していきます。

≪ ケース ≫

日本人女性の花子さんは、米国留学中に米国人男性のジョンさんと出会い、米国で結婚しましたが、子どもが生まれたのを機に、2人は生活の拠点を米国から日本に変えることにしました。日本での生活を開始してからしばらく経った後、ジョンさんと花子さんは不仲になり、離婚を決断します。話し合いにより、花子さんが親権者となり、子どもと一緒に住むことになりました。ジョンさんは別の場所に住むことになりましたが、毎週末、子どもと面会交流をする取り決めをしました。ある週末、ジョンさんは面会交流中に5歳の子どもを連れて米国に行ってしまいました。花子さんは子どもが米国に行くことには同意していませんでした。

このケースにハーグ条約は適用されるの?

ハーグ条約が適用されるためには、①子どもの年齢が16歳未満、②子どもと申請者が現在別々の国にいること、③子どもが移動する前にいた国と移動した先の国の両方が条約の締約国であること、④残された親の監護の権利が侵害される形で子どもが国外に移動したなどの条件があります。

このケースの場合、①子どもは5歳、②子どもと花子さんは現在別々の国におり、③日本と米国はそれぞれハーグ条約の締約国、④花子さんには子どもの監護権があり、子どもが米国に行くことに同意していませんので、ハーグ条約の対象になります。日本は両親の離婚後、父母のどちらか一方を親権者と定める単独親権を採用しています。このケースでは親権者となった花子さんが残された親になるため、ハーグ条約に基づく返還援助の対象になります。仮に日本法上は親権者ではないジョンさんが残された親になった場合は、返還援助は対象外となります(ただし、面会交流援助については対象になります。)。なお、米国では共同親権が原則とされているため、離婚後も両方の親が親権者になるという違いがある点には注意が必要です。

子どもを日本に取り戻すためには~花子さんが取れる方法

花子さんがハーグ条約に基づき子どもの日本への返還を希望する場合、条件が当てはまれば中央当局(外務省)の支援を受けることができます。ハーグ条約の手続は、残された親である花子さんが申請を行うことにより始まります。

まず花子さんは申請書を日本の中央当局に提出します。申請書の書き方については、外務省ハーグ条約室のホームページに説明が載っています。申請書は日本語または英語で受け付けています。花子さんから申請書が提出された後、中央当局は、援助を行うか否かを決めるための審査をします。審査では、花子さんが書いた申請書の内容(法律に基づく申請の根拠、連れ去りが行われたときの状況など)や花子さんの本人確認書類や子どもについての監護の権利を持っていることを示す書類のコピーなどを確認します。援助することが決まったケースについては、外務省の費用負担で申請書類を英語に翻訳し、原本とともに米国の中央当局に移送します。

ここからは子どもがいる米国で手続きが進むことになります。まず、米国の中央当局から子どもを連れ去った親であるジョンさんに手紙が送付されます。任意の話し合いによる返還が難しいようであれば、花子さんは子どもの返還を求めて米国の連邦または州裁判所に子の返還裁判の申立てをします。米国の中央当局からは収入に応じてプロボノの弁護士(無償で案件を受けてくれる弁護士)紹介等の支援を受けることができます。話し合いや裁判を通して、子どもを日本に返還するのか、しないのかを決め、返還が決まった場合には、子の返還が完了した後、ハーグ条約の手続きは終了になります。

子どもが日本から外国に行くことを防ぐためにはどうすれば良かったか?

子どもを連れて日本を出国しようとしている親を何とか引き留める方法はないかといった質問を受けることがありますが、子どもの旅券があれば、一方の親は他方の親の同意を得ていなくても、子どもを連れて日本から出国することが可能です(出国時に航空会社のチェックインカウンターや出国審査場でもう一方の親の渡航同意書の提示は不要です)。したがって、子どもの連れ去りを防ぐには、子どもの旅券をしっかりと管理する必要があります。

なお、子どもの旅券が発行されていない場合で、一方の親が子どもの旅券の発給を求めた場合、もう一方の親権者から子の旅券発給に同意しない旨の意思表示があらかじめ都道府県旅券事務所や在外公館に対してなされている場合等、両親の同意が推定できないときは、旅券の発給は、通常、当該申請が両親の合意によるものとなったことが確認されてからとなります。不同意の意思表示を行う場合は、都道府県旅券事務所又は在外公館に出頭の上、親権者であることを証明する資料(戸籍謄本等)を添付の上、書面で行う必要があります。提出書類等の詳細は、不同意書を提出する都道府県旅券事務所又は在外公館までお問合せください。

子どもが日本から出国したかを確認する方法は?

未成年の子どもを持つ親は、出入国在留管理庁に対して、子どもの出入(帰)国記録を開示する(=見せてもらう)ように求めることができます。開示請求を行った日から30日以内に回答することとなっています。詳しくはこちらをご覧ください。ハーグ条約の返還援助の対象になるのは、子どもが国境を越えて移動した場合に限ります。子どもが国内にいるのか海外にいるのか分からない場合は子どもの出入(帰)国記録を取るのも一案です。

※コラム内の説明には、専門・法律用語ではなく、できるだけ分かりやすい表現を使用しています。正確な用語や詳細については外務省ハーグ条約室のホームページをご覧ください。

2021年 1月 5日更新

ハーグ条約について知りたい方は以下をご参照ください。

Information

広報班外務省ハーグ条約室(外務省ハーグ条約室)

日本では2014年4月1日にハーグ条約が発効しました。ハーグ条約では各締約国に中央当局の設置を義務づけており、日本では中央当局を外務大臣とし、その実務を外務省ハーグ条約室が担っています。

ハーグ条約室では、少しでも多くの方に正しくハーグ条約について理解してもらうべく、国内外で広報活動を行っています。

ハーグ条約について様々な角度から解説していきます。ご不明な点がありましたら、以下までお問い合わせください。

外務省ハーグ条約室

日本、〒100-8919 東京都千代田区霞が関2丁目2-1
TEL:
+81-3-5501-8466
EMAIL:
hagueconventionjapan@mofa.go.jp

次回のコラム

COMING SOON
  • よくある質問2