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米国の歯科診療 101
米国の歯科診療は日本で行われている診療と似ているものもあればかなり違いがあるものもあります。今回のシリーズでは米国の歯科診療101と題して簡単にこちらでの歯科診療が日本のものとどう違うのか、また米国で行われている一般的な治療から最先端の歯科診療に至るまでをDr.伊藤が分かりやすく説明します。
第16回 : ルートキャナル
みなさんは、こちらの歯科治療で 「ルートキャナル」 という言葉を聞いたことがありますか? 日本語で根幹治療、正式には歯内療法といいますが、虫歯が歯髄まで進んでしまった際に行う神経治療のことです。
(図1)
虫歯が出来たのに、痛くないからと放置してしまうと、虫歯菌が歯随まで進んで神経細胞が死に、さらに歯髄や神経管の中が腐敗して根端に病巣が生じます。 (図1参照)
この病巣 (図1) は、いわば膿み袋です。 中にいる菌 (バクテリア) が活発になって排膿され、膿みが溜まり膨張します。 この時のプレッシャーが痛みとして感じるわけです。 通常、歯髄まで虫歯が進むと激痛に襲われ、場合によっては顔が変わってしまうほど腫れたり発熱することさえあります。 これはバクテリア (微生物) が原因ですので、すぐに治療が必要です。 腫れがひどい場合は切開をして膿を出す必要があり、その後は抗生物質による投薬が不可欠です。
虫歯には、急性型と慢性型があり、通常急性型は痛みを伴います。 しかしゆっくりと進行する慢性型には、痛みを伴わない場合もあり、たとえ歯に大きな穴が開いていても、患者さんはあまり認識していないこともあります。
一般的に、米国では神経治療は2回に分けて行われます。 最初の治療時に歯髄や歯根にある神経細胞をすべて排除します。 そしてバクテリアによって侵された歯部のクリーニングを行い、根幹に殺菌薬を入れて閉じます。 通常は1~2週間をかけ、この状態で根幹内の殺菌を行います。 2回目の治療では、この根幹をグタパーチャと呼ばれる材質で埋めてしまいます。 しかしこれだけでは歯の強度に問題があるので、神経管に杭を立て硬質レジン材を流し込み固めます。 建築物でいうと、柱を建てコンクリートを流し込む土台作りの工程にあたります。 そして土台が出来ると、そこにクラウン (冠) をかぶせて治療終了です。
通常ルートキャナル (神経管) は、前歯に1本、小臼歯に2本、そして臼歯に3本~4本あります。 治療時には、この神経管の1本1本にファイルと呼ばれる太さの違う針を順に挿入して、管の洗浄を行います。 このように治療を行うと、それまで痛かった歯の痛みが嘘のように治まります。
(写真1)
しかし神経治療を行ったにもかかわらず、痛みが治まらないことがあります。 それには次のような場合が考えられます。
- 通常の神経管から、Accessory Canal と呼ばれる管が枝分かれして存在する場合 (写真1参照)
- 通常の神経管よりも、余分に管が存在する場合
- 歯根膜炎を起こしている場合 (これは虫歯を放置した場合により起こります)
- 神経治療後に歯の噛み合わせが高かった場合
- 神経管が石灰化してしまい、根端までの洗浄が困難な場合
- 根に亀裂が生じている場合
残念ながら現在の歯学において、神経治療は100%の治療法ではありません。 統計によると、神経治療後の8年間の維持率は97%という数字が出ていますが、その反面、3年以内に問題が生じてくることもあります。 また完治しないときは、抜歯しなければならないこともあります。 神経治療の方法やテクニックは、この20年間でかなり進化し高度になっています。 しかしながら神経治療は完璧ではないのです。
では、我々歯医者はどのようにして、この神経治療に取り組んでいるのでしょうか?
(図2)
神経治療を行う際には、いくつかの例外を除き、通常ラバーダムというゴム製のシートを歯の周りにかけます。(写真2参照) これには治療する歯を隔離し、治療中に雑菌の混じった唾液が歯根内に侵入するのを防ぐ役割があります。 ラバーダムを使用するだけでも治療の成功率は向上します。
またレントゲン上で根幹が確認できないような場合は、Endodontistと呼ばれる専門医に患者さんを紹介するケースもあります。 通常歯医者は、神経治療を行う際、ループ (メガネに装着された2.5倍から4倍程度の顕微鏡 : 写真3参照) を用います。 裸眼では見つけられないような歯根管も、倍率をかけて実際に直視できる状態で治療をすることにより、治療の成功率が向上するわけです。 また外部設置のMicroscope (顕微鏡 : 写真4参照) は、神経治療時には特に有効です。
当院では、専門医が取り扱っているマイクロスコープを導入しており、治療の成功率は、導入前に比べ驚異的に向上しています。
「ルートキャナル」 についてお分かり頂けましたでしょうか?
アメリカでは意外に患者さんが 「ルートキャナル」 という言葉に対して過敏になっているように思われます。 確かにこの治療法は、激しい歯痛の後に行ったり、また治療後に痛みが伴うこともあるため、あまり良い思いを持っていない人がいるのも事実です。
もちろん一番良いのは、神経治療をしなくてもいいように、患者さんが毎日歯の手入れを行い、さらに定期的に歯科検診を受けることでしょう。
しかし最近では、病巣をそのまま放置しておくと、それが心筋梗塞の原因になったり、脳溢血や肺炎を起こしたりするということも分かってきました。 痛くないからといって、放置せずに出来るだけ早いうちに治療や処置を施すことが、歯も含めた身体全体の健康につながるのです。
2013年 1月 9日更新
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Columnist's Profile
- 歯科医師伊藤 仰一(Dr. Kouichi Itoh / ホンダプラザ歯科医院 / The Loft Dental Studio)
1980年、歯科医師になるため渡米。米国歯科医師免許(DDS)取得後、ロマリンダ大学大学院口腔インプラント外科講座修了。歯科補綴専門医コースに一年間所属。その後、助教授として同大学に在籍。米国における日本人としては初めてのインプラントロジストとして日本口腔インプラント学会や歯科大学での招待講演多数。現在も日本においてインプラント研修会の講師を多数務める。2001年よりリトル東京ホンダプラザにて開業。2007年にはオレンジ郡コスタメサに2件目のオフィス、The Loft Dental Studioをオープン。インプラント治療を中心とする審美歯科医院で両医院とも最新の設備を装備。レーザー診療をはじめ、今話題のマイクロサージェリーも提供。その他に一般歯科、口腔外科、歯槽膿漏、麻酔科、Invisalign 歯列矯正、Lumineers治療も提供。患者さんは州外、日本からの来院もある。
コラム羅府新報歯科診療最前線2005年~2007年
TJS日本語ラジオ放送デンタルアベニュー30分放送平日毎日2007年~2008年
コラムTV ファン「歯科診療こぼれ話」2007年~2010年
現在、TJS Japanese Radio FM106.3 の番組 LA Morning にて『Dr.伊藤のデンタルアベニュー』を隔週火曜日に放送中。
Dr. Kouichi Itoh / ホンダプラザ歯科医院 / The Loft Dental Studio
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