コラム

いまなぜモンテッソーリ教育なのか?

2012年 6月 8日更新

第4回 : 教師の心得

子どもが、楽しみながらブロックを順番に大きいものから上に積み上げているとき、あなたがその途中でブロックの順序の間違いを見つけたらどうされますか? 子どもが一生懸命文字を書いているとき、「く」 という字が逆さの 「>」 になっているのを見たらどうしますか? 子どもが一生懸命に取り組んだものを誇らしげに見せにきた時、その間違いをすぐに指摘せず、子どもの頑張りや達成感を一緒に喜んであげることができますか?

多くの場合、「これ間違っているよ。直したら?」 「ここのブロックこうしたらもっと上手に積めるよ」 とすぐさまアドバイス的な声をかけてしまうことも多いのではないでしょうか? 大人側の考えとしては、「子どもはまだ理解していないのだから、今教えてあげるのが親の役目である」 又は、「もし間違いをすぐに正さなければ、その間違いを正しいと思い続けてしまう危険性があるのでは?」 というところではないでしょうか。 このように考えるのはごく一般的だと思います。

学ぶプロセスを楽しむ子どもたち

モンテッソーリ教育法の実践において、教師は子どもの間違いをどのように導いていくかについて注意深く学びます。 間違いを 「違う」 という言葉で示すのではなく、辛抱強く正しいものを見せていくことに勤めます。 その為に、私たちは子どもの間違いをよく観察し、子どもの発達段階を正しく認識して指導する必要があります。 例えば、小さい子どもが文字や数字を書くときに鏡文字 (上下はそのままで左右を反転させた文字) になることはよくあることで、この時期は深刻に考える必要はありません。 私たち教師は、子どもがまだ文字や数字を形として区別していないことを認識した上で、子どもが次に文字や数字を書く機会に正しい文字を書くことが出来るような環境を作り支援します。 子どもは自分たちの学習において、大人たちから何かが違うということを指摘されると、頑固に 「これでいいの!!」 と言い張って自分流のやり方を続けたり、今まで一生懸命取り組んでいた活動をすぐにやめてしまうこともよくあります。 それは、自分が学びのプロセスを楽しみながらが一生懸命やっていることを中断されたり、邪魔をさせられたくないからなのです。 これは、発達においてもとても重要なことです。

結果を重視しがちな大人たち

大人は子ども達がプロセスを楽しんでいても出来上がった結果のみを重要視してしまう傾向があり、せっかく行った活動に対し、間違いのみを指摘してしまうことがあります。 そうすると、子どもは 「ああ、せっかくやったことも、この人 (大人) には充分ではないのだ」 という悲しい気持ちになることでしょう。 子どもが一生懸命取り組んでいることに対して、たとえそれが間違っていたとしても、どのような言葉をかけるのかということには充分気をつけなければいけません。 また、私たち大人は子どもが学ぶプロセスを焦らせてはいけません。 子どもはそれぞれのペースで段階を追って考え、実行するからこそ学んでいけるのです。 もし数字の6を9のように逆さに置いたとしても、辛抱強く正しいほうを見せてあげることにより、子どもは自ら6と9の違いに気付くときが来るはずです。

こんな実話があります。 ある男の子が帰宅の車の中で、幼稚園で一生懸命描いた色とりどりの絵を自慢げにお母さんに見せました。 お母さんもその子の絵にとても感動し嬉しい気持ちのあまり、次の瞬間、「この部分をもう少し下のほうに描くともっといいよ。」 と言ってしまいました。 残念なことに、その子は二度とお母さんに自分の絵を見せたり、お母さんの前で絵を描くことはしなくなったそうです。 その男の子はもう成人になっていますが、お母さんは今でもそのことを思い出し、もしあの時あのように言わなければ、彼の絵に対する才能はどのように伸びていったのだろうかと考えるそうです。 このお母さんの体験談が語るように、子どもの成長や才能を伸ばすにあたって、私たち大人の反応がとても強い影響を与えることがよくわかります。

子ども達を 「自立」 に導く

モンテッソーリ教師としてすべきことは、子ども達を 「自立」 に導くことです。 子ども達は、自ら直接体験したことを、自分が納得いくように思う存分やり遂げた活動を通して 「自立」 していきます。 自立が確立されていない子どもの特徴としては、自信がない、依存心が強い、間違っていないかどうかの確認をすぐに取る、などがあげられます。 例えば、「先生、次、これやっていい? 」 と頻繁に自分の活動の確認に来たり、「この紙どこにあるの? 」 と一人で物を探せなかったり、「一緒にやって」 と常に誰かと一緒にいたがる。 このような傾向を見せる子どもへの関わり方は、自立を促すように支援することです。 効果的な方法としては、子どもに自分がおこなった小さな成功体験をたくさん積ませてあげることです。 簡単なことから徐々にはじめ、次第に難しいものへと移行します。 その子が 「自分ひとりで出来た」 という体験を感じ始めたとき、もうそこには先生の助けはいりません。 これがやりたい、出来るようになりたいと、自ら目的を定めて活動していくようになるでしょう。 このサイクルが確立されていく時、子ども達はどんどん変化を見せます。

モンテッソーリの環境の中で、子ども達が自由に自己選択した活動は、自立を促します。 よくある誤解の1つとして、先生からレッスンを受けていない子どもは、新しい知識を習得したり、学習していないと思われがちですが、それは違います。 自ら選び、取り組み、それをやり遂げる経験をたくさん積んでいくと、能動的な学習の習慣が次第に身につき、その後の学習をスムーズなものにします。 また、教師のレッスンの第一目的は、物や教材の使い方を見せるということです。 これがきっかけとなり、その後子どもが一人で実際に教具を使っていくときに真の学びが始まるのです。 もしモンテッソーリ教育が、先生の助けなしには学ぶことが出来ない授業形態であるのなら、子ども一人に対し教師が一人必要となります。 教師と生徒が1対1の環境であっても、説教をしても、褒め言葉をたくさんかけても、受身の学習体系では子どもの成長や自立を促すことはできません。 モンテッソーリ教育では、どの子どもも自立において必ずたどる道筋があるといいます。

“自分から自由に関わることからはじまり、関わりぬいてその結果 「やった! すんだ! わかった! 」 と実感する自己体験が必要で、それは自分が動いて一人でやってのけたときに生まれる精神状態です。 モンテッソーリ教育はこの現象を生活の中で、何回も経験できるように教材や環境を研究し整えたものです。 すなわち自立への道筋を子どもが日々踏みしめられるように科学研究をつくして構成されています。” (相良敦子 「お母さんの敏感期」)

自ら自由に選び、直接体験し、達成感を得るというプロセスこそが、子どもが成長させる原動力となるのです。 それを可能にするのが私たち教師の仕事です。 子どもの 「学び」 はどのような過程を経ていくのかを充分に理解し、子どもを信じ、子どもを観察し、どのような場面で手伝い、また見守るのかということを認識することは最も大切な教師の心得です。

2012年 6月 8日更新

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「2022—2023年度」新規生徒募集!
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  • 「小学部1~3年」定員残り2人

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Columnist's Profile

ディレクター
Sumiyo Sumikawaモンテッソーリ国際学園

公益財団日本モンテッソーリ綜合研究所研究員。モンテッソーリ国際資格取得コース (AMS認定) ディレクター。日本にてモンテッソーリ教師の資格を取得。幼稚園教諭として幼稚園に5年間勤務。その後、更にモンテッソーリを学ぶために渡米。American Montessori Society (AMS) 認定の幼児及び小学部の資格を取得し、Casa Montessori School にて3-6歳児のクラス担任として7年間勤務。2003年 University of California Los Angeles、で心理学学士号取得。行動療法士として自閉症児の支援をし、その活動の一環として、自閉症やその他の障害をもつ子どもたちにミュージカル“Cats”を指導。障害児とその兄弟姉妹たちで結成した“Miraclecats”のディレクターを務める。2009年College of St. Catherineにて教育学の修士号取得。現在は、サンタアナ市に英語と日本語のバイリンガル教育の幼稚園、モンテッソーリ国際学園主宰。

モンテッソーリ国際学園

2717 S. Halladay Street Santa Ana, CA 92705

“モンテッソーリ国際学園”について詳しくはこちら。

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