心療内科医
久賀谷 亮 TransHope Medical TEL: 424-247-9642

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人間は洗濯機の方が良い

『こころにまつわるおはなし。』

「こころ」 をキーワードに、様々な話題を提供します。

2019年12月 18日更新

第97回 : 人間は洗濯機の方が良い

年末になり、今年のベストはなんだという話をよく聞きますが、2019年に「Cell(セル)」という、おそらく世界的に一番権威のある科学雑誌に載った論文(参考文献)からです。

「人間は洗濯機の方が良い」という話です。

イスラエルのWeizmann Institute of ScienceやアメリカUCLAのグループが行った研究で、猿と人間の脳の情報伝達を調べたものです。進化によって脳の形がどうなってきたというのはよくありますが、彼らはコンピューターでいうと伝達コード、つまり脳内で情報がどのように伝わっているかという「機能」を調べています。人間については、てんかんのある患者さんの脳に直接電極を当てて伝達を測定する、かなりの大作業な研究です。

結論は「ローテクほど壊れにくい」ということです。これは「洗濯機」理論という、冗談でない名前がついており、洗濯機は決して技術的には複雑な造りをしておりませんが、それゆえに壊れにくいというところからきています。

つまり、人間の脳は進化と共に発達して、ハイテクになったがゆえに、壊れやすいということです。

2つの脳の場所について研究は調べています。人間が発達している「前頭前野(Prefrontal Cortex)」と「扁桃体(Amygdala)」です。前者は理性脳、後者は感情脳あるいは人間脳 / 動物脳とも対比されます。結果、より進化している前頭前野は扁桃体よりも情報伝達が効率的でした。どちらも人間の方が猿よりも効率的でした。しかし効率が増すほど、間違いも多くなってることがわかったのです(図)。扁桃体は恐怖を感じて身を守る、いわばサバイバルのための脳です。原始的ですが、間違いは少なかったのです。それは動物が生きるという最大重要事のためには理にかなっています。一方、「人間の扁桃体が間違いが多いことは、PTSD、不安などメンタルな問題に結びついているのでは」、と著者たちは考察しています。

Pryluk, R., et al (2019)より

進化というのは、何かと引き換えに何かを得るという「トレードオフ」で、生物は進化の過程で効率を得た代わりに、正確さを失ったということと考えられます。どこかでエネルギー保存の法則なのですね。そして人間は、高度な生物であると同時に、それゆえに齟齬も起きやすい、つまり脆弱な部分があるということになります。

犬を見ていると、すごくシンプルだと思いませんか?食べ物のために生きている。そのためには一生懸命だし、芸も覚える。そして彼らの方が幸せそうだと思ったことはありませんか?小難しいことを考えない分、袋小路に入りにくいんでしょう。

昨今、ブームのマインドフルネスは、前頭前野と扁桃体の力関係を変えることがわかっています。主従関係でなくより平衡に。ひょっとすると頭でっかちになりすぎた人間をより動物的なバランスに近づけているのでは?実際、脳科学所見はそれを示しています。

では進化はどこへ行くのか?そういう小難しいことは考えないでおきましょうか。

2019年7月に、イーロン・マスクのニューラリンクが示した、脳=機械インターフェースは、さらに頭でっかちに私たちをするのでしょうか?それとも脳の負荷を減らして間違いを減らすのでしょうか?この論文から推察するに、生物の脳のバランスに変化が及ぼされることは必至でしょう(*1)。

さて、このコラムも100回目を近く迎えます。Beinamoment.orgでも記事を掲載していますので、ぜひチェックしてみてください。また、100回を記念して皆様のご興味を持たれた・参考になったコラムをお教えいただければ、今後の参考になります。ぜひアンケートにご協力ください。

《参考文献》
  1. Pryluk, R., Kfir, Y., Gelbard-Sagiv, H., Fried, I., & Paz, R. (2019). A tradeoff in the neural code across regions and species. Cell, 176(3), 597-609.

2019年12月 18日更新

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心療内科医久賀谷 亮(TransHope Medical)

イェール大学医学部神経精神科卒。日米医師免許。趣味 : トライアスロン。TransHope Medical / くがやこころとからだのクリニック院長。「TransHope」 は、Transglobally (国境を越えて)、Transculturally (文化を超えて) に、Hopeを手渡していくことを意味します。

眠れない、疲れやすい、集中できない、気分が晴れない、ストレスによるこころとからだの反応、ライフスタイル改善(体重、仕事パフォーマンス、喫煙)、うつ、パニック、ADHDなどに医学的診察とケアを提供します。

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