まるわかりハーグ条約

ハーグ条約は国境を越えた子どもの移動に関する条約です。多くの皆さんに正しく知ってもらえるようにコラムを執筆します。ぜひお読みください。(本コラムはロサンゼルスの事例を中心に紹介しています。)

2020年 4月 27日更新

ハーグ条約の基礎用語

一方の親の同意なく、もう一方の親が16歳未満の子どもをハーグ条約の締約国に連れて行った場合に、残された親はハーグ条約に基づき、中央当局に援助を申請することができます。(条約の対象になるためには、条約の締約国間の移動である必要があります。)ハーグ条約を理解していただく上で、基礎となる用語について解説していきます。

ハーグ条約の基礎用語。連れ去り、留置、常居所地国とは?

ハーグ条約は、不法に “連れ去られた” または “留置” されている子どもを、子どもの “常居所地国” に返還するのが原則です。両親間の話合いで解決することができず裁判手続に進んだ場合、特段の事情がなければ、子どもを常居所地国に返還するという判断がなされます。

ハーグ条約の大枠を理解する上で鍵となる用語である、「不法な子の連れ去り」、「留置」、「常居所地国」について解説します。

不法な子の「連れ去り(removal)」とは?

一方の親の監護権を侵害する形で、もう一方の親が子どもを元々住んでいた国から外国へ連れ出すことです。

例)

父親の同意を得ていないにもかかわらず、母親が無断で子どもを元々住んでいたカリフォルニア州から日本に移動させた。

不法な子の「留置(retention)」とは?

期限付きの約束で子どもを外国に連れて行き、約束した期限を過ぎても子どもを元々住んでいた国に戻さないことです。(事前に外国に行くことについて、もう一方の親から同意を得ていたとしても、約束した日までに元いた国に戻らなければ留置になります。)

例)

夏休みの間だけ子どもを日本に滞在させることについて父親の同意を得て、母親と子どもは日本に行った。しかし、約束の夏休みを過ぎても子どもがカリフォルニア州に戻らない。

「常居所地国(State of habitual residence)」とは?

ハーグ条約特有の概念です。人が常時居住する場所のことであり、基本的には相当長期間にわたって居住する場所を指します。どこが常居所地国になるかは、住んでいた年数、目的、状況等の要素を総合的に検討して、個別に判断されます。

例)

申請者(残された親)は、「子どもは家族とずっとカリフォルニア州で生活をしていたので、子どもの常居所地国は米国であり、子どもは米国に返還するべきだ。」と訴えます。それに対して、もう一方の親(子どもと一緒に移動した親)は、「これから家族で日本に住むことを決めていた。現に、子どもの幼稚園への入園手続を渡航前に行うなど準備をしてきた。子どもの常居所地国は日本であり、米国に返還すべきではない。」と主張するかもしれません。子どもの常居所地国がどことなるかは裁判所の判断に委ねられます。

外国返還援助申請と日本国返還援助申請

残された親がハーグ条約に基づき返還の援助を申請できるものには、外国返還援助申請(インカミング・ケース)と日本国返還援助申請(アウトゴーイング・ケース)の2種類があります。

① 外国返還援助申請 (インカミング・ケース / incoming case)

一方の親の同意なく、もう一方の親が子どもを “外国から日本に” 移動させたケース(例:子どもがカリフォルニア州から日本に移動)

子どもは日本にいることになりますので、ハーグ条約の手続は日本で行われます。主に日本の中央当局(外務省)が支援を提供します。両親間の話し合いでの解決が難しい場合、残された親(申請者)は日本で裁判を申し立てることができ、日本の裁判所が子どもを米国に返還するか否かを判断することになります。返還裁判は東京家庭裁判所または大阪家庭裁判所で行われます。

② 日本国返還援助申請 (アウトゴーイング・ケース / outgoing case)

一方の親の同意なく、もう一方の親が子どもを “日本から外国に” 移動させたケース(例:子どもが日本からカリフォルニア州に移動)

子どもは外国にいることになりますので、手続は外国(子どもがいる国)で行われることになります。例えば、米国の中央当局は国務省(US Department of State)になります。主に米国の中央当局の支援を受け、両親は話し合いまたは裁判での解決を目指します。裁判が行われるのは米国の裁判所になり、申請者は連邦または州の裁判所に申し立てすることが可能です。

返還と面会交流

ハーグ条約に基づき援助を申請することができるものには、返還と面会交流の2種類あります。どちらを希望するかは、申請者が持っている権利及び希望により異なります。

目的
[ 返還 ]
子どもが元いた国(常居所地国)に戻ることを目指す。
[ 面会交流 ]
外国にいる子どもと面会交流ができるようになることを目指す。(子どもが元いた国に戻ることは求めない。)なお、面会交流とは、直接子どもに会うことに加え、手紙や電話などを通じて子どもとお互いに連絡することなどを含みます。
条件
[ 返還 ]

子どもの常居所地国(連れ去り前にいた国)の法令に基づき、子どもを監護する権利を持っているが、その権利等が妨げられていること。

例)

家族と米国で生活していたが、父親が母親の同意なく、子どもを日本に連れて行ってしまった。
母親が米国の法律に基づき子どもの監護権を持っているのであれば、母親は中央当局の援助を受けることができます。

[ 面会交流 ]

子どもの常居所地国(面会交流が妨げられる直前の常居所地国)の法令に基づき、子どもと面会交流をする権利を持っているが、その権利等が妨げられていること。

例)

家族と米国で生活していたが、離婚を機に母親と子どもは日本で、父親は米国で生活を開始。父親にも子どもと面会交流をする権利があるにも関わらず、離婚後、母親は父親が子どもと会話することを認めなかった。
この場合、父親は中央当局の援助を受けることができます。

裁判手続(子どもが日本にいる場合)
話し合いで解決できない場合、申請者は裁判手続を進めることができます。返還も面会交流も、子どもが日本にいれば、弁護士紹介、裁判資料の翻訳等の日本中央当局の支援を受けることができます。
[ 返還 ]
裁判が行われるのは、東京家庭裁判所か大阪家庭裁判所です。裁判の審理は6週間を目標としていますので、スピーディーに手続が進みます。裁判で判断されることは子どもを常居所地国に返還するか否かであり、監護・親権を決めるものではありません。
[ 面会交流 ]

原則として、日本国内における通常の面会交流に関する家庭裁判所の手続に従い、通常の管轄裁判所で行われます。

ポイント
  • もう一方の親の同意を得ずに子どもを連れ去ることを子の不法な「連れ去り」と言い、約束の期限が過ぎても子どもを元々いた国に戻さないことを「留置」と言う。残された親はハーグ条約に基づき中央当局の援助を受けることができる。
  • 常居所地国は単なる住所ではなく、様々な要素を総合的に検討して個別のケースごとに裁判所で判断される。
  • ハーグ条約に基づき援助を申請することができるのは、以下の4つに分類することができる。
返還 面会交流
インカミング・ケース
(日本にいる子どもに関する申請)
外国
返還援助申請
日本国
面会交流援助申請
アウトゴーイング・ケース
(外国にいる子どもに関する申請)
日本国
返還援助申請
外国
面会交流援助申請
※コラム内の説明には、専門・法律用語ではなく、できるだけ分かりやすい表現を使用しています。正確な用語や詳細については外務省ハーグ条約室のホームページをご覧ください。

2020年 4月 27日更新

ハーグ条約について知りたい方は以下をご参照ください。

Information

広報班外務省ハーグ条約室(外務省ハーグ条約室)

日本では2014年4月1日にハーグ条約が発効しました。ハーグ条約では各締約国に中央当局の設置を義務づけており、日本では中央当局を外務大臣とし、その実務を外務省ハーグ条約室が担っています。

ハーグ条約室では、少しでも多くの方に正しくハーグ条約について理解してもらうべく、国内外で広報活動を行っています。

ハーグ条約について様々な角度から解説していきます。ご不明な点がありましたら、以下までお問い合わせください。

外務省ハーグ条約室

日本、〒100-8919 東京都千代田区霞が関2丁目2-1
TEL:
+81-3-5501-8466
EMAIL:
hagueconventionjapan@mofa.go.jp

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